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リレー句評2回目は、独特の文体の透さんです。

2013/ 01/ 26
                 
      線香花火
               山城透



  もう二度と来ぬ町線香花火買ふ     砂金明

一読、さだまさしの「線香花火」を思ひ浮かべました。

花火といふ、非常に派手な
まさに夏らしいものでありながら
いえ、であるからこそでせうか
線香花火はその語感も伴つて
寂しげな晩夏の雰囲気を漂はせます。

別に買ひたいとも思はず
買ふ必要もないのに買つてしまつた花火。
生まれ育つたところでもなく
知己がゐるわけでもない町。
通りすがりの
おそらくはすぐに記憶から失はれてしまふ場所。
だからこそふと
魔がさしたやうに
手に取つてしまつたのかもしれません。
その線香花火を。

           IMG_3065窓



自分がこの町を忘れないために
といふより
この町に自分を覚えてゐてほしいから。

そんな、形にならない思ひで買つた線香花火を
作者は自宅に帰つて使ふでせうか。
たぶん使はないのではないか、と思ひます。
何処かにしまひこんだまま
その町の記憶とともに忘れて
日々の生活に没入するのではないでせうか。
それは、自分の生に対して
とても誠実で真摯な態度です。
もう二度と行くことがない町のことなど
忘れてしまうにこしたことはありません。

それでもいつか
川面に時折浮かぶ小さな小さな水泡のやうに
ふつと心に浮かび上がつてくるのです。

            影


名前さへ忘れてしまつた海辺の町と線香花火が。

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