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多摩の横山吟行案内         浜島 葵

2009/ 04/ 23
                 
黒川周辺は、急速に住宅地として開発が
進んできたとはいえ、まだまだ田んぼや畑の残っている、
懐かしくのどかなところである。

新百合ヶ丘から三つ目の小田急多摩線黒川駅で下車、
多摩センターに向かって左手に進み、
鶴川街道沿いに二三分歩くと、
まず「汁守神社」という変わった名前の神社に出くわす。

その昔、府中大国魂神社に供える汁物を
調整したことが名前の由来らしい。
鳥居の奥には川崎市の保存樹木という、
いろはもみじやイヌシデなど立派な大木があって、
秋にもなれば祭囃子の聞こえてきそうな、
いかにも地域の鎮守様という感じの神社である。

お参りした後、桃の花や菜の花の咲き満ちる中を、
丘陵地に挟まれた細長い道を進むと、
左右には梨、りんご、柿、野菜などの畑が広がっている。
ちなみにこの辺りで取れる梨を黒川梨といい、
なかなかおいしいそうだ。

畑のところどころ農作業に精を出している人たちを
見かけたり、畦道の脇の小流れにはおたまじゃくしや
小さな魚が泳いでいるのが見えたが、
四季折々たくさんの生き物の生息する
大切な場所だと思う。
夏はバケツを持ったザリガニ捕りの子ども達を見かける。

時折農道は野菜を積んだ小型トラックなどが
行き来するほかは、あまり車も通らないのどかな道だ。
有難いことに、道沿いに簡易トイレが二箇所ほどある。

穏やかな風に春の訪れを感じながら、
のんびり歩いていると、
急に険しい山道に入るところがあり、
入り口には「多摩横山」という標識があった。

そこを十分ほど登っていくと眼下に多摩ニュータウンが
一望できる展望広場があった。

その日はあいにく曇り空だったが、お天気さえ良ければ
丹沢、奥多摩の山々や遠くは富士山までの
雄大な景色が広がり、一休みするのに相応しい木立や
木椅子があって、遠くの山々を眺めながら
お弁当を食べたり、お茶を飲んだり、
くつろげる楽しい場所である。

八王子辺りからの多摩丘陵のこの地は
「多摩の横山」といわれているが、
「横山」とは横に続く山並みを指す古代からの汎称で、
防人達がこの辺りの峠で故郷を振り返って
別れを惜しんだといわれている。

万葉集のたくさんの歌が詠まれた場所で、歌碑も多い。
次の歌も別れを悲しんだ妻の歌である。

赤駒を山野に放し捕りかに 多摩の横山徒歩(かし)ゆか遣らん

(赤駒を山野に放してしまったものだから捕らえられず、
夫を多摩の山並みを歩いて行かせることになってしまった。)


さて展望台で一休みした後は長い階段を一気に下り、
バス道路を十五分ほど歩くと、小田急永山駅に出る。

全行程一時間半ほどの短い道のりだが、喫茶店や
レストランらしきものは永山駅までは
一軒も見当たらないので、
飲み物の準備とトイレは駅で済ませておきたい。

鯉幟のはためく初夏も、紅葉の秋も穏やかな
田園風景がきっと楽しめる
「お勧めの吟行地」の一つである。
        
                    
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