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        安住 敦 一句鑑賞              
                            岩原真咲

      ランプ売るひとつランプを霧にともし   安住 敦

この一句を若い世代はどのように読むのだろう.
夜霧の町の一角にポッと灯る洒落た雑貨店、かわいいデザインのランプが
窓越しに並びその一つが点されている。
思わず店内に……自分の部屋に置いた景を想像し
丹念に選び「これがいいわ」と漸く決めて包んで貰い店を出る。
幸せな買い物なのだろう。仄かなランプの明かりに恋も育つのだろうか。
とでも鑑賞するのかも知れない。
 
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ところがこの句が出来たのは戦後間もない昭和22年である。
その頃の私は小学生、電力不足で夜になると予告もなしに
すーっと電灯が消えて了うのは毎日のようだった。
用意の石油ランプを点し小さな明かりに家族は
自然に寄り添って夜の時間を過ごすのである。
暗くてもちょっぴり幸せな時間だったのかも知れない。

余談だがランプの硝子のホヤにはこどもの小さな手しか入らないので
煤に汚れたランプのホヤの掃除は私の仕事であった。
 
その頃に必需品だったランプを渋谷道玄坂の路上で売っていた景を
敦は一句にした。売り物の一つに火を入れ夜霧に浮かぶ幻想的な灯を
作者はほのぼのとした思いで見ていた。
一瞬敗戦の現実を忘れたと書いている

その敦も30年も経てば句の背景をいつの間にか銀座や
軽井沢のおしゃれな店に置き換えてしまっている自分に気付く。
敦の中でも戦後は遠くなりつつあったのだろう。

                DSCF4557.jpg


それでいいと思う。あんな時代は二度とあってはいけないのだから。
次代を担う若い命に幸せな人生が約束されていれば
この上ないのにと願う。
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レオフェイ
Posted byレオフェイ

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