れいさんによる「都市の一句鑑賞」です。
2016/06/27 都市の一句鑑賞 31
菅野れい
手土産をこまごま煮るや夜半の冬 鈴木ちひろ
久しぶりに会う旧友の家へ?それとも実家へだろうか?
明日の訪問に備えて、手土産にするお菜を作っている。
“こまごま”とあるからには、一種類ではない。
相手の好物や自分の得意料理など、あれこれ見繕って
幾種類も作っているのであろう。
食材を刻み、煮込み、味を付ける、そんな作業の
一つ一つにも心を籠める。
冬の夜、外はしんしんと冷え込んでいる。
しかし、煮炊きの匂いと湯気の漂う室内は、
そんな寒さを感じさせないほど暖かい。
それ以上に、相手の喜ぶ顔を思い浮かべながら
一心に手を動かしている作者の心は、ほっこりと
温かいにちがいない。
そんな情景が浮かんでくる一句である。
季語がいい。“寒さ厳しい冬の夜”だからこそ、
煮炊きする室内と作者が心に感じている温かさが、
逆に際立つ。そして、その温かさを根底から支えているのが
“手土産にするお菜をこまごま煮ている”という
行為そのものである。
生活から、人柄から句は生まれる。読み手の心までも、
ほっこり和ませてくれるようなこんな温かい句は、
作者がちひろさんだからこそ生まれてきたのだと思う。
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