都市の俳句は、今回は仕事の俳句です。
2016/10/04 都市の俳句 33 金子菜園
涼しさよ鋼の桁を出づるとき
秋澤夏斗
男の仕事場を控えめに詠んだ句である。
一般の人には凡そ出来ない経験が、さり気無く詠まれている。
作者の夏斗さんは、本四連絡橋に代表される橋梁関係の仕事に
携わっていたと、人伝に聞いたことがある。
一口に橋梁の仕事と云っても、用地確保、設計、施工管理、検査、
維持管理等々多岐に亘るものであろう。
そして、その建設工事は数年から10数年の長期間になるものもあり、
その間家族とも離れての生活を余儀なくされ、厳冬の冬、
酷暑の夏を幾度も乗り越えるのでしょう。
掲句は、ご自身が長年関係した橋梁が竣功した折、
設計者として或いは施工管理者として、自らが橋梁に上り、
仕上がりを確認されたシーンと思われる。
真夏の太陽は容赦なく照りつけ、橋の鋼材は輻射熱で
猛烈な熱を帯びている。桁の中は風も通らず、まさに蒸し風呂のような
状況なのでしょう。
そして竣功確認を終え、桁の外へ出て安全帽を脱いだその瞬間、
涼しい海風が身体を通り過ぎたのだ。
この時の気持ちは「涼しさよ」と言い切ったところに表れている。
単に涼しいだけではなく、長年の苦労が吹き飛んだ瞬間なのでしょう。
男の仕事を成し遂げた喜びが、言外に感じられ、
味わいの深い句になっていると思います。
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