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映画のワンシーンのようです。

2016/ 12/ 02
                 
       都市の一句  (35)
                          高橋 亘

         行商婦終へて釜揚げうどんかな  小林 風

寒い中の行商を終えて一息つき釜揚げうどんを
食べている行商婦である。中年かそれ以上の年齢で
荷物を下ろした姿に安堵感がただよう。
冷えた体にはうどんが温かい。
 
今は少なくなったが、昔は良く見かけた。
大概姉さんかぶりをしており、大きな荷物を
背負っていた。時間がゆっくり流れていた当時の
街の風景であった。

          IMG_3924.jpg

 
家にも常連の行商おばさんが品物の無くなった頃を
見計らって良く来ていた。話好きの人で母親と
世間話などしてゆくのが常であった。
人の付き合いも深く世の中に人情味があった頃で、
便利屋的要素もあり重宝がられていた。
 
今はコンビニやスーパーマーケットが身近にあり、
必要なものは容易に手に入るようになった。
行商も車でやってきて、商売が済めば
さっと帰るスタイルになっている。

                                IMG_2377.jpg

 
そんな時代の移り変わりの中で、この行商婦は、
房総あたりの海辺の町から朝獲れた魚介のたぐいを、
朝早い電車に乗ってやってくる昔ながらの行商を
想像させる。家族連れや若いペアーで賑わっている
店の中で、行商婦の周りには一仕事終えた安心感があり、作者にはそれが見えたのだろう。
切り字の「かな」が、それを想像させる。
 
「行商婦」という題材の面白さから、同じような仕事の
人の句を手元の句集で探してみたが、予想に反し少なく、
金魚売と担ぎ屋の句それに先生の「朝涼」のひよこ売りの一句のみであった。
「行商婦」という日頃見過ごしがちな働く人を
上手に切り取った俳句でした。
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