ゴッホは、パリに住んだ2年間に、30枚の自画像を描いたとか、、、
2016/12/13 ゴッホの自画像
城中 良
もう、かなり前の事ですが、明るくモダンな装いとなった
国立新美術館に「ゴッホ展」を見に行ったのです。
ゴッホの「フェルトの帽子を被った自画像」が見たかったのです。
人を掻き分け、掻き分け、ようやくゴッホの自画像前に立った。
ポケットにメモ用紙もなく、小さな鉛筆だけが入っていました。
入口で渡された、出品リストに鉛筆をとりだし、
ゴッホの自画像の印象を知らぬ間に書き付けはじめていました。
独りよがりな、埒もない事を、多分興奮し、感激し、
知らぬ間に滅茶苦茶に書き付けていました。
背景のインディゴブルーが叩き付けられるように、回転するように塗られ、
その回る色に、赤やオレンジも混じり一緒に回転しているのです。
髭は茶とオレンジが基調で、濃く塗られている。
顔に髭に緑が、青が、赤があちこちに使われている。
中折れのフェルトの帽子は基調の淡いグレーに、
いろいろな色彩が混じる。鋭い目の右の瞳の上には薄い茶色が塗られてあり、
近くで見るとこの色で瞳は潰れているように見えるのですが、
すこし離れると目はひらき、鋭く、恐ろしく、人に迫るのです。
この自殺する二年前の自画像の目は恐ろしくもあり、
また遠く、遠くの安らぎを見ているようにも思えるのです。
メモはまだ続く、髭の下にきっと結ばれた唇は、
近づくとカーマインの原色の赤が鋭く横一本入っている。
この口は何を語り、何を叫ぼうとしているのか。
ゴッホは自画像を沢山描いている、何を叫ぼうとしているのか。
ゴッホの目はあるときは優しく、あるときは淋しげに、
あるときは何かを求めるように、あるときは虚空をみつめて、
あるいは怒り、あるときは鋭く迫ってくるのです。
自画像は恐ろしい、しらず知らず描く人の内面にひきずりこまれてしまう。
ふと誰の小説か日記か作者は忘れてしまったが、正確には覚えてはいないが
「人は深く考え始めたときから、蝕まれ始まる」と言う言葉が頭をよぎる。
ゴッホの自画像の興奮はなかなかさめやらず、ぼんやり美術館を出て、
夢遊病者のように虚ろのような状態が家に帰るまで続いたのです。
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