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都市の1句です!

2022/ 07/ 07
                 
           都市の一句                  菅野れい

      新聞を広げ爪切る小春かな   嶋田正次

 小春の穏やかな日差しに誘われて、爪でも切ろうかと思い立つ。
今日は時間もたっぷりあることだし、普段はなかなか手の回らない足の爪も
切ることにしようと、日の当たる縁側に新聞紙を広げ、おもむろに靴下を脱ぐ。
やわらかな日差しの下、パチンパチンと爪を切る音だけがのどかに響き、
ゆったりとした時間が流れてゆく…。そんな情景が浮かんでくる一句である。

                                          えんぴつ


 取り上げられているのが、〝爪を切る〟という、ふだん誰もが当たり前のように
行っている行為でありながら、これだけ豊かに景を広げ、そこに流れている雰囲気や
作者の心の動きまで感じさせてくれるのは、取り合わされている〝新聞を広げ〟と
〝小春〟の力によるものだと思う。さらに、〝かな〟と詠嘆していることから、
作者がこの小春の一時をしみじみと味わい、楽しんでいることも窺える。
 
季語の力を信じ、ものごとや行為に託して思いや感動を表現する…正に俳句作りの
お手本のような日常詠の一句である。

 
        小春


 
 もう一つ、この句によってあらためて気づかされたことがある。
それは、同じ行為を詠んでも、取り合わせる季語によって、全く違った景や
思いが表現できるということ。例えば、〝新聞を広げ爪切る〟という行為に〝夏夕べ〟とか
〝霜夜かな〟などを取り合わせたらどうだろう。全く違った景や思いが浮かび上がって
こないだろうか。
 
もちろん、掲句はこの表現、この季語でしっかり完結している。
しかし、このように考えた時、この句はさらなる可能性や広がりを持ってくるように思える。
あらためて季語の力・大切さということを考えさせられた一句でもあった。

                                                  ねこ


 鑑賞する中で、のどかで穏やかな一時を味わわせてくれただけでなく、
句作における大切なことを学んだり考えたりさせてくれたこの一句と作者に
あらためて感謝したい。
素敵な句をありがとうございました。
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