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映画の一シーンのような、良さんの青春の一ページを、、、

2011/ 08/ 28
                 
      だし

          城中 良


季語である。日本海一帯に使われる風の名で、
海岸から沖に向って吹く夏の風で、土地によって
風向きは違うが船を出すのに適しているので
「ダシ」という。と書いてある。

その、生ぬるいダシの風が、午後になって少し弱まってきた頃、
ガタゴトと凄い音を立てて家の前に止まった。

奴だ。また、何か企んでいるにきまっている。
ボロ車のドアが半分開き、奴の声が飛んできた。

「何をしているんだ、早く車に乗れ」いや応もない、
腕を取られて座席に引きずり込まれてしまったのです。

「隣の村に映画を見に行くんだ、あんなー、音楽が凄いんだぜ、
ヴィクター・ヤング、映画のタイトルは大砂塵、ギターを
弾くシーンがあるんだぜ」

         モンロー



奴は一気に捲くし立てた。うーん、断る理由はないな、
しかし、このボロ車、何とかならないのか。

座席シートから半分バネがはみ出していて、そこを避けて
腰掛けていても、車が弾むたびに体が飛び上がるのだ。

当時の道は凄かった。穴だらけの道は雨でも降ろうものなら
水溜りの山で、うっかりはまれば、車はぬけだせないのだ。

じゃ、晴れの日はと言うと、もうもうと車の後ろに悪路の
土煙があがり、土煙を撒き散らしながら、車は
弾みながら走るのである。

奴の魂胆は解かっている。

この車一度止まると、エンジンをかけるのが大変なのだ。
一人がエンジンのスターターを操作し、
一人は車にクランクを差込み
力いっぱい回さないとエンジンがかからない代物なのだ。
奴はこのクランク役として俺を車に引っ張り込んだのだ。

めざす隣村、窯元の多い村で、窯元と言っても、当時は
ほとんど瓦を作っていたのです。
陶土があちこちに剥き出しになっており、
その土が舞いあがり、村全体が薄く土煙に覆われているのです。
まさに「大砂塵」の村をめざしオンボロ車は走っているのです。

      階段


小便臭い映画館に並んで腰を下ろし、映画が始まったのです。
主役は大根役者風だし、映画も感動するほどおもしろくなかった、
という記憶しかないが。主題歌をハスキーな声で歌う
ペギー・リーの「ジャニー・.ギター」は素晴らしかった。

奴と言っている彼、年齢ははっきりしないが、5~6歳は
年上で、田舎には分不相応のギターを持つ、音楽仲間
なのです。

暮れてゆくダシ吹く村は夕焼けにつつまれ、なにか幻想的で、
村を覆う砂埃も夕焼けに薄赤くそまっている。

ハンドルを握りながら、彼はいきなりジャニー・ギターを
歌いだしたのです。

Play the guitar, play it again, my Johnny

いつ歌詞を、いったいどこから仕入れてきたのだ。
絶対音感があったとは思わないが、楽譜など売っていない
田舎なのに、すぐ流行の曲をギターで弾いてみせるのです。

夕焼けの村を見ながら、彼の下手くそな歌に、
ペギー・リーの歌が重なり夢見心地でオンボロ車に揺られ、
町に戻って来たのです。


           dennki.jpg

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