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作家、良さんの言いたかったのは、音楽のことだったそうですが、、、
2012/ 06/ 29 ブラームスはシトロエンに乗って
城中 良
オフィスのチャイムが鳴り、ドアが開き、カメラマン氏が飛び込んできた。
いけない、今日は彼と車でロケ・ハンに行く約束だった。
オフィスをあわてて飛び出す。
すると、驚いたことに、彼の運転してきた車は、あの映画「恋人たち」に出てくる
シトロエンのオープンカーと全く同じ型の車だ。
小高い丘で草以外なにもない、そんなロケーションを探しに出かけたのです。
めざす撮影に見合う場所はなかなか見つからない、
しかし、だんだん撮影の場所などどうでも良くなってきたのです。
この、オープンカーに入ってくる風は心地よく、次第に田舎風になる外の景色は美しい。
車に乗った時から、耳に、頭に、ブラームスの弦楽六重奏曲が鳴りだしていたのです。
車が故障し、煙草を口にしていた、新聞社主の妻ジャンヌに、シトロエンに乗った
通りがかりの若い青年考古学者が車を止めジャンヌを家まで送ってゆく。
ジャンヌ一家に歓待され、若い青年は勧められるまま一晩泊まっていくことを
承知したのです。

その晩、ジャンヌは眠れず、コップにウイスキーをそそぎ、手にもち、満月の
ひかりに照らされた外へ出ていくのです。
そして又、眠れず散歩している青年と出合い、二人はどちらともなく結ばれ、
手をつなぎ、橋をわたり、生い茂った草を掻き分け、ボートに乗り、
水の流れにまかせ愛し合うのです。

この月光のなかのラブシーンはただただ美しくその美しさに合わせるように
ブラームスの六重奏曲があるときクレッシェンドに、あるときはラルゴに響きあうのです。
よく朝、夫も幼い子も、なにもかも捨て、
ジャンヌは青年と家を出ていくのです。
「ここ好いじゃないですか」と言う声に現実にもどり
「うん、いいね」と答え、ロケ・ハンは終わった。
帰路のシトロエンの中でもチェロの音、
ヴァイオリンとヴィオラのピチカートが耳に鳴り響くのです。
花の世へあまたの石を踏んでゆく
柿本 多映
城中 良
オフィスのチャイムが鳴り、ドアが開き、カメラマン氏が飛び込んできた。
いけない、今日は彼と車でロケ・ハンに行く約束だった。
オフィスをあわてて飛び出す。
すると、驚いたことに、彼の運転してきた車は、あの映画「恋人たち」に出てくる
シトロエンのオープンカーと全く同じ型の車だ。
小高い丘で草以外なにもない、そんなロケーションを探しに出かけたのです。
めざす撮影に見合う場所はなかなか見つからない、
しかし、だんだん撮影の場所などどうでも良くなってきたのです。
この、オープンカーに入ってくる風は心地よく、次第に田舎風になる外の景色は美しい。
車に乗った時から、耳に、頭に、ブラームスの弦楽六重奏曲が鳴りだしていたのです。
車が故障し、煙草を口にしていた、新聞社主の妻ジャンヌに、シトロエンに乗った
通りがかりの若い青年考古学者が車を止めジャンヌを家まで送ってゆく。
ジャンヌ一家に歓待され、若い青年は勧められるまま一晩泊まっていくことを
承知したのです。

その晩、ジャンヌは眠れず、コップにウイスキーをそそぎ、手にもち、満月の
ひかりに照らされた外へ出ていくのです。
そして又、眠れず散歩している青年と出合い、二人はどちらともなく結ばれ、
手をつなぎ、橋をわたり、生い茂った草を掻き分け、ボートに乗り、
水の流れにまかせ愛し合うのです。

この月光のなかのラブシーンはただただ美しくその美しさに合わせるように
ブラームスの六重奏曲があるときクレッシェンドに、あるときはラルゴに響きあうのです。
よく朝、夫も幼い子も、なにもかも捨て、
ジャンヌは青年と家を出ていくのです。
「ここ好いじゃないですか」と言う声に現実にもどり
「うん、いいね」と答え、ロケ・ハンは終わった。
帰路のシトロエンの中でもチェロの音、
ヴァイオリンとヴィオラのピチカートが耳に鳴り響くのです。
花の世へあまたの石を踏んでゆく
柿本 多映
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