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ライター心さんの『本』の紹介です。

書評の名人芸~『柔らかな犀の角 山崎努の読書日記』を読んで

                           栗山 心


『都市』に「俳句月評」を連載している。
毎回、願うことは、「ここに取り上げた本を読みたくなるか」
「今、現在を切り取っているか」どうか、ということ。
ほとんどが句集だが、膨大な数刊行される本の中で、
忘れがたい魅力を持つものを紹介したいし、せっかくの月評なので、
リアルタイムで俳句の現代を感じるものを、と思う。

俳優の山崎努が『週刊文春』で連載していた読書日記が、
『柔らかな犀の角 山崎努の読書日記』として刊行された。
連載時にも読んでいたが、一冊通して読むと、優れた書評は
本の紹介に留まらず、読みものとして成り立つ、
ということが分かる名著である。
まさに書評の名人芸、といっても過言ではない。

ここでは、本書に紹介された本から、俳句関連のものを
引いてみる。

たとえば、吉田十篤の『こぼれ放哉』。
「演技する上で大切なのは、危なっかしくやることである。
失敗を覚悟で、どうなってしまうかわかないところへ
自分を追い込んで行く。それが大事。(略)危険を避けるのではなく
安全を避けなければならない」という自身の演技論から、
「放哉は、危なっかしく、安全を避けて生きた人だ」と、
本の紹介に繋がる。

          ドンキホーテー


「映像の仕事は何といってもロケが楽しい」と前置きした上で
「風も陽の光も地べたも快い刺激を与えてくれる。
自分を(幾分かは)役に明け渡す、その感じがこたえられない」と、
嵐山光三郎が芭蕉を理解するために、芭蕉になりきることを試みた
『芭蕉紀行』を紹介する。

俳優としての自分を通した上での、書評が見事だ。
ジャンルを問わず乱読。良いものは良い、と絶賛。
真の本好きを実感する。紹介される何冊かの本が、
一見関係ないようで、深いところで繋がっているのも良い。

たとえば「身体の仕組み、身体の力、身体を貸す」
「悪人、まれびと、寂廖」「ねっとりぬめぬめ、耳のうら、殴る」
などなど、内容を説明し過ぎないタイトルの付け方も興味をそそる。

         IMG_二人


古田十篤の『こぼれ放哉』についての一文で、
「小舟、海上、月、少年、酒、病気」といった劇的材料が
揃っている場面で、敢えて作者の古田が筆致を抑えたタッチで
描いたことに対し、「もし僕がこのシーンを演じるとすれば、
古田のフィーリングに近くなるはずだ」という、山崎努。
ぜひ山崎の演じる放哉を観てみたいものである。
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レオフェイ
Posted byレオフェイ

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